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魔王な使い魔と魔法少女の非日常
1 :代理:2009/04/30(木) 21:26:20.40 ID:G01nuxgt0



2 :>>1乙[sage]:2009/04/30(木) 21:28:00.26 ID:MVfd8QFcP
 0.九月二十二日火曜日、国民の休日

「待てこらぁー!」
 世間は正義に厳しい、とそう感じさせる叫びだった。
「止まれ不審者、変な服ー!」
 世間は正義にとっても厳しい、とそう感じさせる叫びだった。
「ばかー! あんぽんたんー! 生命活動ごと停止しろー!」
 聞いているだけで涙が出てきそうになるいわれようだが、それでも足は止めない。走る。走る。走る。
 罵声混じりに追ってくる少女はすでに息を切らせていた。
 無理もないだろう。事件現場からここまでおよそ二百メートル、全力疾走を強いられればそうもなる。
 むしろ、見るからに華奢な体つきの少女が、自転車に乗っているでもなく自分のように『魔法』で強化されているでもないのに付いてこれたことの方が不思議といえた。
 しかし、そのがんばりもここでおしまいだろう。
 目の前には川がある。
 そして、橋は横手に数百メートルの遠く。
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 21:28:44.54 ID:G01nuxgt0
   _人人人人人人人人人人人人人人人_
    >    ゆっくりしていってね!!! <
     ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
     ,. '´    / /       |    ',  \
  ri´`\    /  /    _,,,...、_  !.     ',   \
 /7´:::::::::::`'::、    /   /::::::::::i_{  |.      ',
 「!::::::::::::::::::::::::`ヽ.__,,...,,__/:::::;::::::::::!」   :     '.      \
./7::::::::::::::::::::::::::::_;;::ヽ-─`<::::::::::::!_',  _,.,,_      .
rく::::::::::::::::::>'"´::::::::::::::::::::::::::::::`'::、!」 く:::::::::`ヽ.
'ヽ`ヽ;::::/::::::/::;::::::::::::::::::::::::::::';::::::::ヾ/:::::::::::::::::`:、
7´`ヽ;Y:::::::::/:::::/::::::::::;'::::;'::::!:::::::i::::';:::::::',::::::::ト'、::::::::ヽ、
:::::/:::::i:::::::::;':::::;'::::,:::::::/:::/|:::;ハ::::/!:::;ハ:::::::i::::::i __`>ri-‐''ア、
:::;':::::: !::::::::i:::;:'_;/|/ゝノ レ' レ/:/://:::::;:::!ー-'r‐'"`ヽ-r-、::::`':、
::i:::::::: ':;::::ァレ'| |  ( ヒ_]     ヒ_ン)i7:::::/レ'/ ̄7ー-r'´7ヽ、>ー、:::::>
;ハ::::::::::::';ハ、_,!ニ」 ""  ,___,   ""i`iヾ, ハ  __,.レ;!、/! /」`ヽソ´
:::i::::::::::::/V:::::|:::::';    ヽ _ン   ,,ハ!::::::〉 )ノ i(ヒ_] レ 'ヒン!〉
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::::';::::::/::::::,!イ!:::::::i、 `''r-ァi´::::;' |:::::!´  ! ';    ヽ,_ム!
ヽ;!:::::r<ヽ  !:::::::| `ヽ.」7`ヽ;/ .|:::::| ';  ,ハ !、   ,.イ) i
 /`ヽ. `Y'; |::::::;'ヽ /ム  /i7、!:::::| ノインVヽ/`7´) ソヘノ
'´ ヽ  '; !::::レ'::::::::Y/  V::::! |::::;'´`ヽ;:::::';___!_!ヽ(ン(
     、!イi::::::::::::::::/;' __」::::::! レ'ヽ.  ';:::::::o::::::::}>く{ヽ.
4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:29:10.75 ID:MVfd8QFcP
「……第三十七『魔法』術式――解放」
 手にした杖が光る。
 行使された『魔法』が自身を跳ね上げる。
 文字通りに、十メートルほどの高さへと一気に飛ばされた。
 強烈な加速にギリギリと体は縛られ、身にまとう黒の衣装は風を吸ってばたばたとはためく。
 川の中央よりやや前方を最高点に、『魔法』の反動は失われ放物線運動。
「……第十八『魔法』術式――解放」
 減速をし、川の対岸にふわりと着地した。
「何よ……それ……」
 後ろを見ると、やはり川は越えられず、少女は呆然と立ち尽くしていた。
「そんなにあたしを苦しめて楽しいの?」
 悪かったとは思う。
「あたしの何がいけなかったっていうのよ!」
 でも――

「取材に応えろ、ばっきゃろー!」

 そんなものに応えたくはないのだ。
「……断る」
 できるだけ感情を出さないように、声も表情も抑えて告げた。
「逃げ方が下手な分だけ政治家の方がまだあんたより可愛げがあるわぁあああ!」
 怒りのヤクザキックを喰らって、何の罪もない川岸のフェンス君がびぃん、と鳴いた。

「二度と来んな、魔法少女!」

>>
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:30:24.28 ID:MVfd8QFcP
『本誌記者、またしても魔法少女に遭遇!』

 九月二十二日午後三時ごろ、美浜区幕張西にて強盗事件が発生。通りかかった本誌記者が駆けつけたところ、くだんの魔法少女が現れ瞬く間に犯人を捕縛した。
 本誌記者は魔法少女に取材を試みるも返答はなく、大空へと姿をくらませた。
 これで七度目の遭遇と相成ったが、未だに一言の回答も得ることができていない。寡黙な彼女の正体は何なのか、なぜ事件を解決するのか、魔法は実在しているのか、疑問は尽きない。

 ――『週刊奇跡報道』記者、母里佐奈
>>>>>
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:31:36.74 ID:MVfd8QFcP
 情報収集が大事?
 戦略を練るなら知識は必要?
 よしてくれ、最適化なんてまっぴらごめんだ。
 知らないことがたくさんあるからこそ人生は楽しいのだし、気楽でいられるのだ。

 1.九月二十三日水曜日、秋分の日

 ――と、そのようなことを思い玄関を見やった。
「朝霧さーん、お願いしますよー」
 ゴンゴン、と戸をたたく音。
 呼び鈴を使わないのはわざとなのか、非常にやかましい。
「朝霧さーん、三ヶ月だけでいいですからー」
 それはつまり、『最低三ヶ月は契約をしないと、今後も休日の早朝に現れて貴様の惰眠を妨害するぞ』という意思表示か?
「ほら、いまどき新聞も読んでないなんてひと、いませんよー。頭に入れておかないときっと会話に困りますってー」
 どれだけ僕は話題が貧困そうに見えるのか。
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:32:40.64 ID:G01nuxgt0
C
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:32:50.70 ID:MVfd8QFcP
 まったく、めんどくさい話だ。
「まだどこの新聞もとってないんでしょー? ウチのを頼みますよー」
 まだとっていないのではない。
 とる気がそもそもないのだ。
 情報化社会が叫ばれインターネット全盛のこの時代、紙の媒体の情報に拘泥する必要はすでになくなっている。無論、情報を得る上ではいまだに権威のあるツールには違いないが――問題は、それが有料であるということ。
 月々およそ三千円。
 マンションとは名ばかりの古アパートに住まうひとり暮らしの高校生に、特段の理由もなくその額面をひねり出せというのは酷なもの。
 で、あるからして――
「朝霧さーん、少しだけでいいですからお話しましょうよー。いるのはわかってるんですからー」
 ――現在、絶賛居留守中。
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:34:19.67 ID:MVfd8QFcP
 騒々しい玄関を放置して、パソコンと向き合う。
 イヤホンをしてカチカチと、巡回サイトをぐるりと一周。
 どこも日記ばかりで大きな更新がなかったことを確認すると、時刻はちょうど午前七時四十分。
「うーん……じゃあ、また来ますね。朝霧さん」
 いつもどおりのタイミングで、新聞拡張員はそうつぶやいた。
 かつかつ、と足音がしてようやく一息。
「さて、と……」
 ぐい、と伸びをしてあくびをひとつ。
 ぽきぽき、と背骨が轟音を響かせた。
「ふぁあ……」
 ……だるい。
 あああ、ダメだ。休日なのに早起きさせられて損したと思うとテンション下がる!
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:35:31.04 ID:MVfd8QFcP
 よしよしよし、考え方を変えよう考え方を。休みなのに早起きを強要されたといえば聞こえが悪いけれど、休日を目一杯使う機会を与えられたともいえるはずだ。おや、天気はどうだったろうか、晴れならばたまった洗濯物を一気に干せるな。
そうだ、寒くなってくることだしそろそろ毛布君にもご出陣を願う時期。がんばれば、今夜はふかふかほわほわのお日様のにおいのする毛布に包まって寝れるじゃないか。よしよし、わくわくしてきたぞ。
「よぉし! 手紙の確認、しかる後にさっさと朝ごはんだ! かかれっ!」
 さあ、楽しい楽しい休日の始まりだ――

 ――と、ドアを開けたら拡張員がまだいた。
「ふっふっふ、朝霧さ〜ん。お待ちしていましたよ〜」
 こっちはちっとも待ってないんですが。
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:36:43.76 ID:MVfd8QFcP
「今日こそじっくりと当社の新聞を取ることの利点についてお話いたしますねぇ〜」
「や、今日はすぐ出かけないといけないんで、遠慮させてもらいます」
 じろ、と上から下まで見られた。
「その格好で、ですか? コンビニくらいでしたらお待ちいたしますよ」
 我が愛用のくまさん柄パジャマを局地戦専用と愚弄するか、貴様。
「いえいえ、もちろん着替えますとも。あいにくと丸一日出ていることになりそうなので」
「そうですかぁ」
 にこにこ、と拡張員は微笑む。
「そうなんですよぉ」
 負けじとこちらもにこにこ、と笑んだ。

 本当に出かけるのかどうかじーっと見守る拡張員との無言の戦いが幕を下ろした。
>>
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:37:59.91 ID:MVfd8QFcP
 実にもったいない。
 休みとは家でゴロゴロするためにこそ存在するというのに、表に出るなど不経済極まりない。
 暖房? そんな軟弱なものは必要ない。人間、少しとはいえ熱を発している。室内に居続ければそれなりには暖かくなるようになっているのだ。
 それを思うと、寒空の下にいるということがどれだけのエネルギーを無駄遣いするかということを我々人類はじっくり考えるべきで――
「へっくし」
 ……止めよう。考えるだけエネルギーの無駄だ。
 九月は中盤を回り、後半に入り、終盤となった。
 珍しく少し気の早い前線は、いつになく過ごしやすい残暑を我々に提供してくれている。
 おかげで冷房代が節約できて万歳であった。
 が、今日はそれを少し恨みたい。
 涼しいを通り越して寒いのだ。
 持ちうる最大の防寒具であるところの薄っぺらなジャンパーを羽織り、ナップサックを担いで出てみれば、天気予報も嘘をついていた。
 洗濯日和の二重丸はどこへやら、もくもくと現れた雲であっという間に天は半分以上が覆われた。
 放っておけば雨すら降りかねない嫌な空模様である。
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:39:46.16 ID:MVfd8QFcP
「うーむ、多少はあったかいかと思ったんだけど、失敗か……」
 ちらり、と入り口にかけられた看板を見る。
 大森林公園。
 一周するのに歩いて五分とかからない上、申し訳程度に樹木が並んでいるだけのここにそのようなたいそうな名前を付けた人間は何者なのだろうか。気にならないけど気になる。
 まあ、公園としては小さくとも、周囲に大きな建物の影がない。団地都市としては貴重な日照権が大いに守られている土地である……が、
「寒い」
 期待したほどの強い日差しはなかった。
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:40:59.89 ID:t6IklvyH0
しぇーん
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:41:13.58 ID:MVfd8QFcP
 海に程近く、新幹線はなくともそこそこ交通の便がよく、都心からもまあまあ遠くないそんな街。そこに建つ、住み慣れた――というには幾分付き合いの短いアパート。そこからさらに徒歩十分、駅とは反対側にある公園までわざわざ出向いたのは暖を期待したからだ。
 本来であれば文明の利器に頭を下げて暖房の利いた屋内へと避難をするところ。
 しかし、駅前でウィンドウショッピングとしゃれ込もうにも時刻は午前八時。さすがにシャッターが上がっていない。
 そこで、猫がよくひなたぼっこをしに来ると聞いた公園を訪れたのだ。
 だが、
「猫の子一匹おりませんがな……」
 うわさは当てにならん。
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:41:40.25 ID:7Tq0EESWO
しえ!
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:42:28.88 ID:MVfd8QFcP
 秋の空 毛皮を着たいな はひふへほ
 もうちょっと煮詰めれば五百年くらい残りそうな一句が生まれそうな経験だ。うんうん。へっくしょい。
 それにしても、ここはひとりでいるにはさみしすぎる。
 他人が見たらば、人目を嫌ってこそこそと逃げてきたように思うんじゃなかろうか。
「……このままブランコにでも座っていたら、完全にリストラお父さんだな」
 ためしに座ってみた。
 ひゅるり、と風が吹いた。
 腕を抱くようにしてさすった。
「とっても寒い」
 体も心も。
 猫や野生のおじさんが生息していないのは、どうやら公園の大きさだけが理由ではなさそうだ。
 ここは風が冷たい。
 高台から海と街を同時に眺められるロケーション――といえば格好いいが、その実は海風にもビル風にも見舞われる強風地帯だった。
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:44:26.28 ID:MVfd8QFcP
「しかたないな、駅前でも――ん?」
 ブランコから立ち上がろうとしたら、変なものを見つけた。
 いや、本来正しいわけなのだが、それこそが奇妙であるものを発見したというべきか。
 染めていない黒の髪。紺のブレザー、ねずみ色のミニスカート。それらには、白の線が一本と走っている。胸元には赤のネクタイ。
靴下も靴も決められたとおりの逸脱していないもの。規定違反スレスレあるいはそれを明らかに超えた改造品ばかり見ていたためだろう、妙に露出が足りない気がする。
 誰も覚えていない『本来そうあるべき』一文を思い出す。

 ――外出時は、学外の活動であっても制服を着用すること。

 その娘は、白鳳高校の制服に身を包んでいた。
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:44:36.32 ID:t6IklvyH0
C
20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:45:39.23 ID:MVfd8QFcP
「はて……?」
 部活動か呼び出しか、もしくは冠婚葬祭。
 休日にまで制服を着るとなれば、理由はおおよそ、その三つに絞られる。
 さて、どれだろう。
 そのいずれにしてもここは目的地ではなく、さらに移動が必要なわけだが、
「この辺でいいかな?」
 と、彼女は街を見下ろせる柵の手前に立った。
 転落防止のため背丈よりも高い柵。
 色は白だったらしいが、ところどころペンキがはがれ始めていて、何年も修繕されていないことがうかがわれた。
 それなのに、彼女は少しでも近くへ、といわんばかりに柵に顔を近付け、その向こうを見ている。
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:46:53.88 ID:MVfd8QFcP
「見えたらいいな……」
 何が、だろうか。
 ブランコを立ち、同じように柵から、目を凝らす。
 見えるのは、平凡な世界。
 計画性があったと思しききちんとした区画の地域と、ひとが増えるにしたがって場当たり的に作られたぐちゃぐちゃした区画。それらが半端にかみ合ってひとつの秩序を作り出していた。
 たぶん、ありふれた光景。
 特徴的な建物なんて何もない。
 巨大なタワーもなければ、長大なビルもない。雄大な牧場もなければ、広大な遺跡もない。
 強いてあげれば海とそれを埋め立てて作った土地があることくらいだろう。
 詰まらないところだ。
 ただ、
「……見えたら、いいな」
 そうというのが野暮だってことがわかるくらいに、彼女は真剣な目をしていた。
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:48:16.04 ID:MVfd8QFcP
「おっと、いけないいけない」
 そう言うと、彼女はおもむろに手に持っていた紙袋からダンボールを取り出した。

 公園+ダンボール

 イコールの先にピンと来るものがひとつある方程式だ。
「まさか……」
 彼女はおぼつかない手付きで苦労しながらも、二分ほどでダンボール箱を組み上げた。
 直方体だ。
 きちんと全面ふたをされているきれいな直方体である。
「できたー♪」
 あ、自分で拍手してる。
「……それで、これはどうやって住むのかな?」
 やっぱり住む気だった!
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:49:28.98 ID:MVfd8QFcP
「うーん……」
 腕組みをし、首を傾げて考える。
 考える。
 考える。
 ものすごく考える。
 本人は必死なのだろうけれども、なにやら可愛らしい。
 小動物的に微笑ましいともいうかもしれない。
 クワッと効果音が出そうなポーズを決め、
「――こうだっ!?」
 それは、直方体のダンボール箱の上部を開け、その中に座り込む――

 一言でいえば、捨て猫なスタイルだった。

「……君は誰かに拾われたいのか?」
「ひゃわぁあああっ!?」
 何の気なしにツッコんだら二メートルくらい後退られた。
 そこまで驚かれると傷付くんだけどなぁ。
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:50:52.30 ID:MVfd8QFcP
「だ、だ、だ、誰っ!? わ、ワタシ、ニホンゴ、シャベレナイアルヨ!」
「いやそれ日本語だから」
「ふぇ? あっ……」
 大きな瞳が驚いていた。
 朱の唇も小さく開いて呆然と。
 何か信じられないようなものを見てしまったように――
「あああああっ!」
「な、何?」
「わ、私のおうちがぁー……」
 足元を見ると、後退ったときに彼女自身に踏み付けられ、無残な姿となったダンボールハウスも怒気があった。
 ぷつり、と意図が切れたように力なくへたり込み、地べたに手を付く。
「世界にはもう絶望以外ない……アル……」
 あるのかないのかどっちだ。

 ぐきゅうううっ

「……何、今の音?」
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:52:04.73 ID:MVfd8QFcP
 答えることなく、彼女はもそもそと潰れたダンボールの上で横になった。それだけを見たならば行き倒れのような格好で。
「……それで?」
「おかなが空き過ぎた少女はもう動けません……」
 さいですか。
「おうちを組み立てなおす余力もないようです……」
 そうですか。
「極寒の地に放置すれば、きっと明日の朝刊をにぎわすことでしょう……。ダイイングメッセージは似顔絵付の豪華版……」
「豪華なのかなぁ」
 かなり疑問だ。
「そこのお優しいお方。慈悲と謝罪の精神があらば、力なく果てたびしょーじょにお恵みをー」
「とても元気に見えます」
 実際、そんなに衰弱しては見えない。
「何をおっしゃいますか、私はもう体力ゼロですよ。ううっ、くるしい〜」
 ぱたぱた、と手足を振ってわざとらしくデフォルメした苦しむフリ。
 なんだか、楽しくて笑ってしまった。
 まあ、ダンボールを壊した責任は僕にもありそうだし、
「コンビニの菓子パンくらいしか買えないけどいいかな?」
「もちろん♪」
 元気だなぁ。
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:53:26.56 ID:MVfd8QFcP
「おーい、こっちこっちー♪」
「はいはい」
 再建された捨て猫ハウスで彼女はぱたぱたと手を振っていた。
「ホントにコンビニくらいしかやってなかったから、大したものはないよ?」
 言いつつ、コンビニ袋からアンパンを取り出した。
「いえいえ、食べるものがあるだけで大感謝です♪」
 両手でちょこんとビニールを持ち、包装をはがしてかぶり付く。
 もぎゅもぎゅと噛んで、ごくりと飲み込む。
「はあぁ……おいしいぃ……」
「よござんした」
 おかげでただでさえ軽い財布が羽の生えたようになってしまったけどね。
「どっこいしょ……っと」
 公園備え付けのベンチがあまり冷たくなっていなかったのは幸いだった。
 見上げると先ほどよりもさらに曇天具合が悪化していた。
 うーん、参るなぁ。
 降られるとさすがに屋外というわけにもいかないし……。
 羽ばたいている財布の中身を確認、口座の残高もついでに思い出す。
 ……降ったら帰るしかないね、こりゃあ。
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:54:40.35 ID:MVfd8QFcP
「うまいかー?」
「それは、もう!」
 よしよし、と頭をなでたくなるいいお返事で。
「はふぅ〜……ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
 人心地付いたか、彼女はほにゃーとした笑顔を見せた。
「パン一個で足りたの?」
「あはは……しばらく食べてなかったからか、もう胃が満杯です」
 それはまたなんというか。
「食生活って大事です。今度ばかりは実感しましたよ」
「だろうねぇ」
「『ぼんきゅっぱーん』ですらっとした長身が光る見事なモデル体型だったのですが、いやはやもったいないもったいないもったい……ない……。ううぅ……しくしく」
「そんな、自らさえ偽れない嘘を付かずとも」
 ひとまず『ぼんきゅっぱーん』はおいておくとして、それでも背が足りない。彼女は百五十センチほどだろうか、僕よりも頭ひとつは低く小さい。
「まあ、食生活どころか衣食住全滅なんですけどね」
 たはは……と、彼女は長い黒髪をかきあげた。
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:55:20.68 ID:G01nuxgt0
C
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:55:57.79 ID:MVfd8QFcP
「んー……聞いていいかな?」
 その、衣食住全滅になった過程を。
「では、おもしろみのある答えとない答えがございますので、お選びくださいませませ」
 立ち上がり、スカートの端をつまんで優雅に一礼。おどけたしゃべりと対照的にぴしりと決められた。
 何を聞きたいかはわかっている、といってくれるのなら話は早い。
「じゃあ、おもしろみのない方で」
「おや、意外。君ならおもしろい方を選ぶと思ったのになー」
「僕と君の仲なのに……わかってもらえないとは悲しいよっ!」
 合わせて僕が舞台役者のように振ってみた。
「ぷっ……あはははは」
「お気に召したようでなによりでございますます」
 同じく立ち上がり、胸元に手を当ててうやうやしく一礼。彼女ほどじゃないにしてもそれなりには決まったと思う。
「でも、端折っちゃうと本当におもしろみがないよ。着の身着のまま家出をした末路です、ハイ」
 なるほど。
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 21:55:59.07 ID:T16MPOleO
支援
31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:57:10.59 ID:MVfd8QFcP
「お疲れ様でした」
「いえいえ、ごちそうさまでした」
「それじゃあ、強く生きてください」
 しゅたっと手を上げ、回れ右。
「へいゆー。じゃすとあもーめんと、だ」
「ダメ」
 僕はノーといえる日本人です。
「まあまあ、まだ何も言ってないですし、聞くだけ聞いてよー」
「じゃ、聞くだけ」
「泊――」
「ダメ」
 終了。
「早っ! 言い切ってもいないよっ!?」
「あいにくとひとり暮らしなもんでねぇ」
「家事なら手伝えるよっ!」
「いいえ、先立つものがさっぱりなんです」
 とほほ、と僕は肩をすくめた。
「いやいやぁ、一日あたりたった三食でこーんな美少女があなたの生活を潤してくれる。くうぅっ、お買い得っ!」
「間に合ってます」
「三ヶ月だけ! 三ヶ月だけ置いてもらえれば、洗剤六個サービスしちゃうよ!?」
「契約を迫る新聞屋かい!」
「あはははは」
 ホント、ノリがいいなぁ。
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:58:23.60 ID:MVfd8QFcP
 ひとしきり笑うと彼女は腕組みをして、
「やー。だけど実際その――大変だよ、契約って……」
 しみじみと口にした。
「そうだなぁ……」
「うん……」
 契約。
 契約は重い。
 一個一個の重さは違うだろうけれど、ときとして予期せぬ重みを持つ場合がある。というか、あった。
 うふふ、なんかやり場のない怒りの類がこみ上げてきてございましてよ?
 そりゃあ望んださ。望んだけど――そりゃあねっすよ!
 休日の朝に寒空の下、新聞拡張員に迫られて逃げてきました。連休は結局遊んだ記憶がございません。漫画が読みたい? ゲームをやりたい?  お金がないので生活費以外はすべて贅沢品です。
 アレ? なんだか泣きたくなってきたよママン。
 ゴホン、と咳払いをひとつ、ばね仕掛けの人形のように彼女は立ち上がった。
「あー、寒いっ! ね、ちょっとお留守番お願いしていい?」
「それはつまり、ダンボールが風で飛ばないように押さえてろ、と」
「おうちですー!」
 彼女はぱたぱた腕をばたつかせた。
「はいはい、行ってらっしゃいな」
「ありがと、すぐ戻ってくるからよろしくね」
「さっさと用を足したり引いたりして来るといい」
「直接的な物言いをするなー!」
 はっはっは。
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 21:59:50.01 ID:MVfd8QFcP
「ふぅ……」
 こういってはなんだが、助かった。
 沈みかけた空気を引き上げて、気分を変えるための時間までくれた。よく気の回る娘だ。
 こちらの気持ちをうまく察してくれているというか……深読みし過ぎかな?
「……そういや、まだ名前も聞いてなかったな」
 パンをおごって、莫迦な話をして、個人的な事情を少しばかり教えてもらって、そのおかげかなんとなく前々からの知り合いのような気がしていた。
 こう……具体的に理由を言葉にすることは難しいのだが、なんだか話しやすい。妙に馬が合った。
 せいぜいが二十分足らずの短い――そこまで短かったのか、と時計を確認してしまったくらい短い――付き合いなのに、多少なら手助けをしてもいいと思えるほどに、だ。
「だけど、一緒に住むってのは無理だな……」
 アレだけは、アレだけは……何が何でも他人に見られるわけにはいかん!
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 22:01:15.20 ID:7Tq0EESWO
しえーん
35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:01:16.83 ID:MVfd8QFcP
「うぉ……っと!」
 決意を新たにした瞬間、一段と強い風が吹いた。
 ダンボールハウスから紙片が舞い上がる。
「うわわわわ」
 あわてて追いかける。
 意思を持っているかのように右へ左へと逃げ回るそれをどうにか確保した。
「ん?」
 これは、契約の書類……?
 いつぞや見せられた新聞屋のそれとほぼ同じ形態。
 そういえば、さっき彼女と新聞契約について話してたっけか。
「……ふむ」
 まあ、なんだ。
 三ヶ月くらいなら……ね?
 その、ほら! 放っておくとまたあの拡張員は押しかけてくるじゃあないか。
 それなら、彼女を相手に契約してしまった方がまだすっきりするというかなんというか。
 ……安易に家出外泊を引き伸ばすようなことが正しいかどうかはわからないけれども――少しは喜んでくれるかもしれないし。
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:02:27.54 ID:MVfd8QFcP
「期間は三ヶ月、契約者名は朝霧瑞希……っと」
「ダメぇえええ!」
「えっ――うわっ!?」
 後ろからの彼女の大声に、振り向きかけた瞬間――
 光。
 白い光。
 書類から放たれる光。
 圧倒的な光量が目を襲った。
「――っ!」
 幻想的なんて余裕はさっぱりない。
 目を焼こうとしているとしか思えない強すぎる明かり。
 視界どころか視覚すら機能しているのか怪しいくらいの圧力がかかっている。
「――ぅ……あ?」
 見える。
 見えている。
 見えてしまっている。
「り……の……?」
 この光の中でなぜか、彼女の姿だけがくっきりと目に映っていた。
 目を凝らさずとも大きな瞳のそのまた瞳孔の開き具合まで。
 回り込まずとも流れる髪の毛の一本一本まで視認できる。
「……きれい、だ」
 いや、違うだろ僕。何をのんきなことを言っているんだ。そんなマニアック過ぎる部分に見惚れたみたいなことを――ってそれでもなくて!
 がくん、と唐突に光の奔流は消え去った。
 同時に、異常なくらいよく見ることができた彼女の姿も、元通り僕の当たり前の視覚範囲でのみでしか確認できなくなった。
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:03:44.32 ID:MVfd8QFcP
「け、契約完了……?」
「な、なんだぁ、今の?」
「みみみ、見せて。契約書、見せて!」
 彼女は、半ばひったくるようにして書きたてほやほやのそれを手に取る。
 長々細々とした契約の文言をすっとばし、最後のページにある契約期間と契約者名までを一分足らずで読み終えた。
「ふ、ふふ……ふふふふふ……」
「え、えと、お嬢様? 笑い方が恐ろしゅうございますが……」
「なんてことすんのよー!」
 びゅん、とダンボール箱を振り回された。
「ま、待て待て待て、僕はその、君のために三ヶ月だけ新聞を取ろうと――」
「これは新聞の購読契約書じゃなーいっ!」
「じゃあ、これはいったい――」
「すとーっぷ!」
 言葉を強引にさえぎられた。
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:04:57.67 ID:MVfd8QFcP
「な、何?」
「ここから先、しゃべらないで!」
「へ?」
「しゃべるなぁあああ!」
「いやその、なんで? ――説明して」
 付け加えるように頼んだその言葉だけが、震えた。
 かちり、と何かがはまったような音が聞こえた。
 彼女の手の中にあった契約書が薄く輝き、
「ハイ、私があなた様のご命令を聞かなくてはならないからですっ!」
 彼女はこぼれ落ちそうなくらいのニコニコ笑顔になった。
「――どうして?」
 かちり
「契約によって、私があなた様の使い魔になれたからです! ――ってあああああっ!」
 ニコニコタイム終了。
 えーっと……、
「なかなかハイセンスだった!」
「ギャグじゃなあああいっ!」
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:06:09.79 ID:MVfd8QFcP
「なら――」
「すとぉーっぷ! 今度こそ完全停止要求! すとっぷおぶすとっぷ! 私にもプライバシーというものがあるの!」
「……わかった。任せるから説明してほしい」
 本当かどうかの判断は後に回そう。
 ――たぶん、本当なんだろうけど。ああ、なんでまた僕は厄介ごとを拾っちゃうかなぁ……。
「まずその前に、お願い」
 彼女は人差し指を立てた。
「黙秘権を認めてほしいの。話したくないこともあるから」
「了解。他は?」
 顔を赤らめて、おずおずと、
「え、えっちぃ命令はやめてね?」
「しない。誓おう」
 ほっと胸をなでおろした。
「――では、名乗ろう。私はリノである」
「……である?」
 なんで急に時代がかった口調に?
40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:07:23.03 ID:MVfd8QFcP
「そう、異世界――魔界の王たるもののひとり、魔王リノである!」
 と、リノは大仰かつえらそうにそれでいて迫力満点――なつもりなのだろう――に見得を切る。
 ちょいーん、と何かが抜けた効果音が僕の脳内で鳴ったことは内緒にしておいてあげよう
「不本意ながらも契約によって君とつながりが生まれた。なれば、私は魔王としてその庇護下にあるべきしもべを守る義務があろう!」
 使い魔やら魔界が存在するというトンデモ話はとりあえず鵜呑みにするとして、
「……リノが使い魔なら、リノがしもべなんじゃないのか?」
「ちっちっち、これは代償によってなされる対等な契約。だから、私は君のしもべではないのよ。そして、私は魔王! つまりえらい! よって、君がしもべなの!」
 なんだかものすごーく怪しい論理。
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:08:35.57 ID:MVfd8QFcP
「代償って?」
「うっ!」
 あ、痛いところなんだ。
「も、黙秘権を行使させてください……」
「ここでは却下。大事なことだから話して。――命令」
 かちり
「ううぅ……」
 涙目になって縮こまって可愛いなぁ……って、変な趣味に目覚めてしまいそうだ。いかんいかん。
「……き」
「えっ?」
 よく聞き取れなかった。
「三食、おやつ付き……」
 ……は?
「お、おなかが空きすぎて、つい、その、そういう内容の使い魔契約書を捨てられなくて……。も、もちろん、使う気なんてなかったよっ!? ちっとも。ぜんぜん。まったく。本当に!」
 感想。
「魔王やっすぅううう!」
「思っても口にするなぁあああ!」
「いやもう、そんな人類のまだ見ぬ境地に挑まれても」
「そこまで!? そこまでの無理難題なのっ!?」
 そりゃあもう。
42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 22:09:07.46 ID:G01nuxgt0
C
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:09:49.58 ID:MVfd8QFcP
「……と、ともかく! 君は私ののしもべなの! 魔王様の命令は絶対なのー!」
 もう完全に口調は元に戻っている。
「そういわれてもなぁ。――リノは僕のしもべである方がうれしいんじゃない?」
 いい加減耳慣れてきたかちり、という音。
「ハイ、ご主人様。リノはご主人様のしもべであることが喜びですっ♪ ――って、言わすなぁあああ!」
「はっはっは」
 なんか、おもしろい。おもしろくていいのかは知らないけど。
「みっ!?」
 突然リノが震えた。
 何かと驚いたが、ぽつりぽつりと土にしみができればわかるというもの。
「あちゃー、ついに降り出したか……」
 まあ、長い話になりそうだし……家に上げるよりはまだいいということで、
「行こう、続きは喫茶店で聞くよ」
「え、で、でもあの……わ、私には個人で使える予算があまり、その……」
 指先を合わせていじいじと。
 それは先刻承知です。
「はいはい、僕がおごるからさ」
「ほ、本当っ!?」
 リノが、がばっと顔を上げた。
「あんまり高いものは無理だけどね」
「ほ、ほっとけーきは……注文して、いい……?」
「ホットケーキ? そのくらいならいいよ」
 ぱあっと咲いたような笑顔。
「うん、私はいいしもべに恵まれたよっ♪」
 本当に安いなぁ、魔王様。
「うん? 何か言った?」
「空耳だよ、きっと」
>>
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:11:11.76 ID:MVfd8QFcP
 公園からそう遠くなく、ついでにホットケーキが絶品という喫茶店。『北ガラス』はそんな店なのだそうな。
「くぅ〜……このふわふわ感がおいしいっ♪」
 右手にフォークを構えたまま、こぼれるとでもいうのか左手でほっぺたを押さえてリノは喜んだ。
「うーむ……確かに、これはうまいなぁ……」
 ふかふかの生地にとろりと溶けるバター、すっと塗られたハチミツ、アクセントに生クリームをトッピングした特製ホットケーキはすばらしく甘かった。
「部長のグルメマップに感謝だな、こりゃ……」
「部長さん?」
 器用にも鼻の頭にクリームを乗せたまま訊ねるリノ。
「ウチの部の、ね。学校周辺で食べ歩くのが趣味なんだってさ」
「優雅な趣味だねぇ……」
「まったく同感。普通にそんな趣味を楽しもうと思ったらいくらお金があっても足りないよ」
 あー、紅茶もいい香りだ。
45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:12:30.13 ID:MVfd8QFcP
「ただ、部長はその辺、頭のいいことを考えてね」
「うん?」
 くき、とリノは首を傾けた。
「公然と部費で食べ歩きできるクラブを作ったんだよ」
「……不正じゃあないの?」
 鼻の頭が真剣な表情を台無しにしているけど、あえて指摘しない。
「さあね。部長がいうには合法で、先生方もグルメマップの愛用者がいるから問題ないんだってさ」
「ふぅん」
 あ、鼻をかいた。
 気が付いちゃった。残念。
「まあ、正義感にかぶれて行動をするには……役に立ってるみたいだし、微妙なところだよ」
 ずずず、と紅茶をすすった。
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:13:45.96 ID:MVfd8QFcP
「さて、そろそろ詳しい話を聞かせてよ」
「うーん……どこから話したものかなぁ」
 時計は、まだ九時前。
「時間はあるから大枠からでいいよ」
「じゃあ、世界についてから話すね」
 本気で大きな枠だなぁ。
「こちらの世界とは別に、けれども非常に近しい場所にもうひとつ世界があるの。で、こちらの世界の言葉を借りて、その世界は『魔界』と称されている。これが前提」
 空になったカップをそっと置いた。
「数学的、また物理的な考察からその世界はやはり天体のひとつであり、『地球』と同じように宇宙に浮かんでいる球であるといわれている。でも、不可思議なことに『地球』と『魔界』は部分的につながっていたの」
「へぇ」
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 22:14:00.67 ID:G01nuxgt0
C
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:14:59.64 ID:MVfd8QFcP
「そのつながりはとても小さく、とても細く、とても短い。だから、『魔法』という素地があればこそ『魔界』の住人にのみ知られているのよ」
「ほぉ」
「『地球』と『魔界』という対比は言葉として少し変なものだよね? ここで私が『魔界』と呼称しているものは、その世界での惑星のひとつなのだから惑星の名で呼ばれてしかるべきなんだけれど……それについては、文化的背景の問題へと踏み込まないといけないので割愛、と」
「はぁ」
「……ちゃんと聴いてる?」
 ものすごく眉根を寄せられた。
「興味がないわけじゃないけれど、結論から枝葉に広げる説明のしかたが好みかな」
「むぅ……」
 うなり、リノはフォークを置いた。
49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:16:31.37 ID:MVfd8QFcP
「さっきもいったとおり、私は魔王のひとり。ふとした事情から、こちらの世界で単身しばらく過ごすことにした。その準備の途中で瑞希と出会い、契約を結んでしまった。これがここまでの流れね」
「うん。そのくらいなら、なんとなくわかってた」
 ダンボールハウスに住むつもりだったのか、とは問いたいけど。
「君が一番気になるところは、ここでの『契約』に関する部分だと思うけれど」
「まあ、そうだね」
 他は僕とかかわりのない――積極的にかかわろうとしなければ、かかわらずにすむかもしれない――ところだし。
「成立にいたるまでの歴史や経緯もこれまたごっそりと省略して、結論――つまり、私と瑞希にかかる制約についてのみ話すよ?」
「よろしく」
50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:17:45.13 ID:MVfd8QFcP
「使い魔側にかかる制約は三つ。主人の命令の遵守、主人への虚偽報告の禁制、その他主人への反抗の禁止」
 まあ、そうだろう。
「主人側にかかる制約はひとつ。契約時の対価受け渡し遵守だけ」
「ずいぶんと主人側に都合のいいものなんだね」
 とてもじゃないが、対等とは思えない。
「たとえば、主人が契約時の対価に金銭を指定したとして、それ以上の額を使い魔の個人資産から引き出させることもできるんじゃないか?」
「できるよ」
 なんだそりゃ。
「使い魔側にうまみがぜんぜんないな……まるで、売られて行く奴隷の契約みたいだ」
「当たらずとも遠からず……かな」
「まあ細かくは訊かないよ。あまり話すとリノの不利が大きくなりすぎるだろうし」
 きょとんとしてリノは目をしばたかせた。
「その……なんだろう、私がいうことでもない気がするんだけど……いいの?」
「んー」
 紅茶を一口。
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 22:18:55.40 ID:G01nuxgt0
C
52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:18:56.81 ID:MVfd8QFcP
「特に奴隷が必要でもないし、ほしいとも思ってない。意味もなくうらみを買う趣味だって持ち合わせてないし、ね」
「瑞希……」
 リノの顔がほころんだところで、
「なにより、まだその言葉を鵜呑みにできるだけの信用がリノにないんだよねー♪」
 おー、笑顔が凍った凍った。
「『実はファンタジック美人局でした♪』というオチも考えうるし!」
「何その視聴率が取れそうにない深夜番組のような名前はー!」
「はっはっは」
 ……まあ、考えうるというだけで、リノがうそをついていないことはわかっている。
 前提となる知識について、僕がまったくの無知ではなかったから。
 でも、口には出さない。
 リノがおもしろいし。
「むぐぐ……」
53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 22:19:11.49 ID:G01nuxgt0
C
54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:20:10.07 ID:MVfd8QFcP
「質問だけど、契約を守れなかったらどうなるんだ?」
 三度三度食わせておやつまで付けないといけないペットを飼う財力はないんだが。
「それはないよ」
「?」
「私があれほど無様に……もとい、素直に質問に答えてしまったように、瑞希にも同様の強制力が働いているの。その力の大きさはふたりの魔力総量に比例するらしいけど――どちらにしても、ひとの身で抗うのはどだい不可能な代物だよ」
「つまり、僕は何があろうとリノに三食プラスおやつを出し続けてしまう、と」
「うん♪」
 胸を張られた。
「やっぱりファンタジック美人局だった!」
「一食二食につられて身売りなどする気なんてなかったよっ!」
 一ヶ月なので、ざっと九十食だけどね。
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 22:20:20.12 ID:G01nuxgt0
C
56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:21:59.73 ID:MVfd8QFcP
「うーん……食費が倍ってのは怖いなぁ。何万円増えるんだろう」
「……何万円?」
 怪訝な顔でリノが見上げてきた。
「一食四百円としても九十食だと三万六千円になるでしょ?」
「瑞希……もしかして、自炊はしてないの?」
「人類が摂取できるはずの食材を人類が摂取できない物体に調理することはできるぞ」
 焼けば炭ができて、蒸せば炭ができて、煮ても炭ができる。料理とは実に不思議だ。
「はぁ……ちゃんと節約して料理すれば一ヶ月で三万円もかからないでしょうに」
「……一人分で?」
「二人分」
 一人分の食費よりも安い二人分の食費ってことですか!?
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:23:15.45 ID:MVfd8QFcP
「これでも料理は得意なの。日本風な和洋中もこなせるよっ♪」
 おおぉ……後光が差している……。
「日本風というからには、カレーライスも……」
「かれーは水っぽいものよりも、どろっとした、ごはんにあわせて食べるものの方が好きですよぉ……フフフ……」
「魔王様!」
「ふっふっふ、あがめるがいいー♪」
「アパートの庭に小屋を建てるので来てくださいっ!」
 おおっ、コケた。いいリアクションだ。
「私は犬かっ!?」
「捨てられ方は猫のようにも見えましたっ!」
「捨てられてたわけじゃなーいっ!」
 魔王ハウス。
58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:24:29.00 ID:MVfd8QFcP
「まあ、まじめにいうと……僕、ひとり暮らしなんだよね」
「うん?」
「つまり、リノが来ると、年頃の男女がひとつ屋根の下!」
「別に構わないよ?」
 ぐっ……ちょっとはひるもうよ。
「証明としては物足りぬかもしれないけど――私はこういうこともできるからね」
 そういって、リノは自分の指を軽くなめると、さらさらと紙ナプキンに何かを書いた。
 スティックシュガーの袋を開け、その紙ナプキンの一ヶ所に山を作り――
「燃えよ」
 ボッ
 紙ナプキンの端にリノが指を乗せると、砂糖が一瞬で燃え尽きた。
「これが『魔法』。君たちには使えない異形なるものの力――」
「コンロはあるよ?」
 おー、突っ伏した。
「ちっがぁあああう!」
 一瞬取り戻しかけた威厳はすこーんと吹っ飛んでいった。
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:25:42.68 ID:MVfd8QFcP
「リノって、実はお笑い番組好きでしょ?」
「き、嫌いではないけど……って、そうじゃなくて! 私は『魔法』使えるの! もの燃やしたりもの凍らせたりできるの!」
「冷蔵庫もあるよ?」
「ちーがーうーのー!」
 あっはっは。
「と、ともかくね。私は強いの。君が何かしでかそうとしても逃げることは簡単なんだよ! だから、その点は気にせず、私をあったかいおうちに入れてくださいお外は想像以上に寒かったんです残暑でこれだと冬が本気で恐ろしいんですお願いしますお頼みしますお願いします」
 後半なにやら本音が駄々漏れしていた気もするが、さて困った。
 うまい料理ができて、なおかつそのまま節約につなげられるというのはのどから手が出るほどほしい逸材。
 だが、家に上げると……ましてや、同居するとなると……バレる確率が……。
 ちゃらりらりらりら〜♪
 喫茶店らしく天井付近にすえられたTVから、特徴的な音楽が流れ始めた。
60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 22:26:05.02 ID:G01nuxgt0
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61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:27:01.00 ID:627wqx0Q0
http://up2.viploader.net/upphp/src/vlphp248585.jpg
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:27:13.48 ID:MVfd8QFcP
「え、もう『新感覚、嫌死刑魔法少女☆祈坂』の時間なの?」
 見ると、派手派手しいコスチューム――大きなお友達のことを考えてか、やや露出過多――に身を包んだ可愛らしい少女が、これまた派手派手しい『魔法』で敵と思しき肥満気味の中年男性とやせぎすなメガネ男を音楽に合わせて吹っ飛ばしていた。どうやらオープニングらしい。
「魔法少女ねぇ……好きなのか?」
「……好きなのか?」
「うん! 強いしカッコイイし、特に第三羽の『大変! 大怪我をしているわ。こうなったら……楽にしてあげるしか……』とためらいなく被害者を救済するシーンでの魔法少女祈坂の癒し系っぷりが大好き♪」
「……ほぉ」
 はた、とリノが我に返る。
「な、何かな、その目は? あ、アニメだからといって莫迦にできるものじゃあないよ? 社会風刺を思わせると同時にキャラクター性を確立し、それでいて深い心理描写、ハイスピード過ぎる戦闘シーンなど見所いっぱいなんだから!
こ、子供向けではないよ! 一線を画した大人向けの本格派アニメなのっ!」
 いや、それはどうでもいいんだけど、
「『魔法』使えるのに、魔法少女好き……」
「魔法少女に限定するのはまだまだ日の浅いヒヨっこのすることですよ。当然、私は魔女っ子も好きですね!」
 どう違うんだか。
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 22:27:57.87 ID:G01nuxgt0
   _,,....,,_
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_,.!イ_  _,.ヘーァ'二ハ二ヽ、へ,_7 : .   : 'r ´       ..::::::::::::::.、ン、:
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r-'ァ'"´/  /! ハ  ハ  !  iヾ_ノ : :i イ iゝ、イ人レ/_ルヽイ i | :
!イ´ ,' | /__,.!/ V 、!__ハ  ,' ,ゝ : : レリイi (◯),  、(◯)::::| .|、i .|| :
`!  !/レi' (◯),  、(◯) レ'i ノ :   : !Y!""  ,rェェェ、 ".::::「 !ノ i | :
,'  ノ   !'"   ,rェェェ、  "' i .レ' :  . : L.',.   |,r-r-|   .::::L」 ノ| | :
 (  ,ハ    |,r-r-|   人! :  .   : | ||ヽ、 `ニニ´ .:::::,イ| ||イ| / :
,.ヘ,)、  )>,、_`ニニ´_,.イ  ハ :    : レ ル` ー--─ ´ルレ レ´:
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:28:39.65 ID:MVfd8QFcP
「うーむ」
 むむむ……。
 料理+節約+魔法少女好き……。
「……変、かな?」
 上目遣いに、さみしそうにリノはつぶやいた。
「そんなことはないと思うよ。世の中、もっとすごい趣味の人だっていくらでもいるだろうし」
「ううん、瑞希にとって、の話」
 僕にとって……?
「瑞希は、正義って嫌い?」
 正義。
 正義ときたか。
 よりによって、『正義なんか』がきたか。
「んー……嫌いじゃあないけど――」
 リノはその一瞬、落胆したような表情を見せた。
「――大好きって声を張り上げるのは、僕じゃいけないと思うけど」
「えっ?」
「僕なんかが高らかに正義を語っても、誰も納得しないでしょ? そういうこと」
 たぶん、逃げ。
 だけども、リノにあの表情はさせておきたくなかった。
「……瑞希」
「ん?」
「ありがとう」
 リノは小さく笑った。
「……何が?」
 というよりも、『どういう意味で?』と。
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:29:52.87 ID:MVfd8QFcP
「無茶な命令だってできる状態で、これほどよくしてくれて」
 うらみごとのひとつもいってくれればいいのに。
「行くあてでもある……のか?」
「うーん……先住民がいる駅のホームで相談してみようと思うよっ」
「……」
 はぁ……。
 僕も焼きが回ったかなぁ?
「ひとつ、約束」
「ん? 何?」
「僕の部屋には入らない。いい?」
「うん」
 うなづいてから、一秒ほどリノは止まった。
「……え? ええっ!? い、いいの!? 私も一緒に住んでいいのっ!?」
「覗いたら鶴になって空に帰っちゃうからそのつもりでね」
「大船に乗ったつもりで任せておいてっ! 何があろうとも守っちゃうよー♪」
 うん、いい笑顔だわ。
>>
66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:31:06.11 ID:MVfd8QFcP
 魔法少女になって、数少ないよかったと思えることのひとつ。
 それが、空を飛べること。
 飛行機には乗ったことがある。そのときは大した感慨もなく、ああ飛んでいるな、と窓から地上を見下ろしただけだった。
 空を飛びたいと願った古の巨人たちも飛行機に乗ったらばいうだろう。「こういうことじゃあないんだよねぇ」と。
 大空を自在に。その身で感じられるように。
 きっと、そういう思いがあったのではないだろうか。
 まあ、空を飛べるといっても、優雅にふわりふわり、とではなく――

 びゅごぉおおおおおおおお

 耳をつんざく轟音を横手に、『魔法』障壁が音速の壁をばしばし叩いている。
 気を抜いたら? 気を抜く暇なんてあるわけがない!
 古の巨人たちもこういうだろう。「これはこれで間違ってるっぽい」と。
 目印にしていた建物が目に入った。
 すう、と息を吸い込み――足を天へと向ける。
「……っ!」
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:32:21.20 ID:MVfd8QFcP
 上空数百メートルからの落下。
 高空というには浅く、だけれどもたたきつけられて死ぬには十分過ぎる高度。
 今から十数秒か、数秒か、あるいはそれよりもさらに短い時間、意識が途切れただけでも容易に人間は『失われる』。
 背筋が凍る。
 恐ろしい。
 怖い。
「……ふぅ」
 恐怖で固まる頭に深呼吸をひとつ。体を返し、足を地面へと向け、
「……第十七『魔法』術式――展開!」
 どかん、と逆にGが生まれた。
「……くっ!」
 すさまじい圧が体を襲う。
 めきめきと絞り上げられるような感触。
 もし『魔法』障壁がなくなれば、針をつきたてられた風船のように中にいる自分はめちゃくちゃになってしまうのではないか――と、せんのないことを思った。
 地面から数十センチの安全距離をとって、静止。
 そうしてから重力に身をゆだね、そっと降り立った。
 で、
「着たわねぇ……魔法少女! 今度こそ、インタビューに応えてもらおうじゃないの!」
 なんでこのひと、すでに現場にいるの?
「……心から断る」

 なんだてめえは、とわかりやすいチンピラ台詞を口にしたコンビニ強盗を沈め、さっさと逃げた。
>>
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:33:34.14 ID:MVfd8QFcP
『本誌記者、魔法少女の正体をつかんだ――か?』

 九月二十三日午後一時ごろ、美浜区ひび野にてコンビニ強盗事件が発生。近くを通っていた本誌記者が駆けつけたところ、くだんの魔法少女が現れ、不思議な『魔法』を用いて抵抗する犯人を捕縛した。
 本誌記者は魔法少女に取材を試みるも回答はなく、独占インタビューの機会は得られなかった。
 通産八度目の遭遇となり、本誌専属記者も「次回に現れる場所に見当が付くようになった。おそらく彼女の正体が何者であるか正しく把握できたからだ」と自信満々である。
 寡黙な彼女の正体は何なのか、次週の『週刊奇跡報道』では本誌専属記者が大胆に明かしてくれるであろう。

 ――『週刊奇跡報道ウェブ』記者、母里佐奈
>>
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:34:54.11 ID:MVfd8QFcP
 いや、色気のある展開を期待したわけじゃないけれどね?
「ああ、疲れた……」
 ぐるん、と腕を回し、首をこきこきと鳴らす。
 疲れが取れるわけでもないが、幾分楽になったような気がした。
 いっそ全身ストレッチでもしようかと考えていると、コーヒーを飲もうと沸かしていたやかんが騒ぎ始めた。
 時刻はというとすでに暮れてかかっていてる午後五時。
「ミズキは本当にお人よしだよねぇ」
 いたずら好きな子供を思わせる高い声がした。
「うっさい、棒」
「放っておけばいいのに、目の前で他人が困ってるとどうしても手を出しちゃう。普段、達観したような顔をしてるのにねぇ。くふふ」
「折るぞ?」
「あっ、ちょっ、痛い痛い痛い折れる折れる折れるハルちゃん折れちゃうべキっと割れちゃうポッキリいっちゃうやめてやめてやめてー」
 と、騒いでもリノは一言も発することはなかった。
70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 22:35:58.16 ID:G01nuxgt0
C
71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:36:21.70 ID:MVfd8QFcP
「くぅ……」
 僕のベッドを占領する形で、リノはすやすやおやすみ中。
「ぐっすり寝てるねぇ、ミズキ」
「まあ……疲れてるんだろうね。いつからかは知らないけど表にいたみたいだし」
「初めて訪れた男の部屋であっさり寝れるって、情状を酌量しても大物だねぇ」
「僕もまさか寝てるとは思わなかったよ」
 家に帰ってきて、テーブルに倒れ込んでいる姿を見付けたときには何事かと思ったが。
「ねぇねぇ、それでさ、この娘は誰?」
「ん? 聞いてなかったのか?」
「ちょっと眠くってねぇ」
 道理で静かだと。
「僕がハルにそれを訊ねたかったんだけどね」
「どういうこと?」
 棒なのに首を傾げるな。
「魔王って言ってた」
 さすがに意表を突かれたのか、ハルの息が止まる。息してるのかわからないけど。
72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:38:49.44 ID:MVfd8QFcP
「魔王ねぇ……前にもいったと思うけど、魔界の統一王は存在しないよ?」
「だから、可能性としてありうるのは魔界のどこかの国の王様かな、と思ったんだ」
「むー、知らないねぇ。ハルちゃんはそんなに王族に詳しいわけじゃないけれど、この娘がどこかの王様だった記憶はないみたい」
 まあ、そもそもこちらで見ることなんてありえないけどね、とハルは笑った。
「となると、おかしい」
「何がおかしいの、ミズキ?」
「どうせバレることだからいっちゃうと、この娘と契約したんだ」
 しん、と静まった。
「……使い魔の契約?」
 首肯。
「おかしいよ、ミズキ。うん、それはおかしいよ」
「だよね」
「契約したのであれば、うそはつけない。これは絶対のルールなんだよ?」
 リノ本人もいっていたな。
「ということは、ハルちゃんが考えるに、ありえるのは三通り。この娘の記憶能力がおかしいか、この娘の言語能力がおかしいか、この娘の判断能力がおかしいか」
「それは違う。少なくともその倍、いや、三倍の数までは確実にありうるよ」
 いやだから、棒なのに器用に首を傾げるな、と。
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:40:05.30 ID:MVfd8QFcP
「『リノ』だけじゃなくて、『朝霧瑞希』や『ハル』がおかしいという可能性もあるということさ」
 つまり、僕がリノの言葉を記憶し損じた可能性。僕がリノの言葉を言語的に理解し損ねた可能性。僕が理解したリノ言葉を誤って判断した可能性。それと、ハルが僕へ説明したもろもろが同様に間違っていた可能性がある。だから、三倍だ。
「ああ、なるほど〜。ミズキは頭いいねぇ」
 ただ、状況証拠だけを並べるのであればリノが一番怪しいというのも事実だけれども。
「――でも、そこまで理解していて連れてきちゃった理由は?」
「料理ができるんだってさ。二人分作っても一人前を買うよりも安いらしい」
「ミズキ……」
 目があったら哀れみのそれで見つめてきそうな雰囲気をただよわせるな、棒。
「さすがに、お人よしが過ぎるよねぇ」
「別に……三ヶ月くらい、どうということはないよ」
 ため息をつきなさんな。
「この娘、服や髪がキレイだって気が付いてるよねぇ?」
 身なりのきれいな家出少女が、たまたま魔王でした。あはははは。
 ――ない。ないわ。
「……まあね」
「魔界から機界に来ることはたぶんまだできないと思ってたけど……技術革新でも起こったのかなぁ? ――その新しくてものすごーく高額を吹っかけられそうな技術を使えるって、すごいよねぇ?」
「……ああ、わかってる」
 ため息をついてしまった。
74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:41:16.13 ID:MVfd8QFcP
 リノには持ち物らしい持ち物もほとんど見当たらなかった。持ち歩いていたのは、せいぜいがバッグに入る程度の着替えくらいのもの。隠しているのか着の身着のままなのか、あるいは送り届けられる算段でも付いているのか。はてさて、どうなんだろう。
 奇妙すぎる情報が山積していて、さっぱりそれらはつながらない。にもかかわらず、それらのいずれもが高い確率で正しい情報なのだという。なんだこりゃ。
「わかってるならいいよ、ハルちゃんはミズキの意思を尊重する」
「……ありがとう、ハル」
「わ、ミズキからハルちゃんへの感謝の言葉聞いたのかなり久しぶり! 明日は雪が降るかなぁ?」
「秋口が見えてきたとはいえさすがにまだ早いだろ。……けど、寒いのであれば暖めてやることはやぶさかではないね」
「えっ?」
「ちょうど、湧きたてのお湯が残ってるし……」
 コーヒーおいしいです。
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 22:42:44.38 ID:G01nuxgt0
C
76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 22:45:59.63 ID:G01nuxgt0
C
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 22:51:57.02 ID:7Tq0EESWO
支援
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 22:56:32.13 ID:G01nuxgt0
あげ
79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:00:09.21 ID:MVfd8QFcP
「み、ミズキ? えと、それを……ハルちゃんにどうするつもり――」
「煮沸消毒?」
 ちょっと違うかも。まあいいか。
「あ、ちょっ、熱い熱い熱い融ける融ける融けるハルちゃん融けちゃうドロっと崩れちゃうポロリといっちゃうやめてやめてやめてー」
 別に、照れ隠しではない。
「ミズキミズキミズキ、出撃出撃出撃だよっ! ほらもうすぐ出撃しないと熱い熱い熱いー」
「……このタイミングで?」
「一刻の猶予もないねぇ! うんっ!」
 じとーっ
「うわ、ミズキものっそいジト目だねぇ。でも急がないと!」
「……じゃあ、続きは後にしよう」
「するのっ!? 続きするのっ!?」
 当然です。
>>>>>
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:00:42.42 ID:G01nuxgt0
C
81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:01:37.29 ID:MVfd8QFcP
 いっそ、『七月の暑さを解決できたらノーベル賞をまとめて五個プレゼントキャンペーン』なんてやってくれないだろうか。その小粋さにきっと全世界の科学者ががんばってくれる。んでもって、僕たち涼しくなってハッピー。万々歳。
 半ば以上本気で思った。
「重要なのはプリム部分だ。いいかね、アサ。繰り返すが、メイドさんは記号であり、その象徴はプリム部分なのだ」
 そして、その蒸し暑い初夏の真っ昼間だというのに、鼎は絶好調だった。
「あのプリムのおかげで、我々はメイドさんにセーラー服を着せることができるようになった。スク水を着せることができるようになった。いや、そればかりか十八キーンな場面においてもその役柄を見誤ることなく裸体を注視し得るようになったのだ。
これは蒸気機関の発明よりも人類にとって意義があることとは思わないかね?」
 人類の九十九パーセント以上が心の底からどうでもいいと思うことを第三帝国の総統ばりに演説できると、人生において何かプラスになることがあるのだろうか。
 パンの最後のひとかけらを飲み込み、僕はくしゃくしゃとスマイリーなマークの付いた購買紙袋を丸めた。
82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:02:59.65 ID:MVfd8QFcP
「何なんだ、そのプリムってのは……?」
「プリムというのは、メイドさんが頭部に装着しているあのひらひらふりふりした夢と希望から生まれた物質のことだ。ホワイトプリム、ヘッドドレスなどと呼ばれることもあるな」
 夢と希望がそんな形態変化をするとは思わないけれど理解。アレはプリムという名前だったのか。
「で、何の話だっけ? 購買のメロンラスクはやっぱり存在しないって話だったよね?」
「そんな話はしておらん。メイドさんはプリムを装着している限りメイドさんとして見ることができる。
であるからして、メイドさんはメイド服にのみ拘泥することなく他の衣装、ひいては他の立場を兼ね合わせることができるという、歴史的にも製紙技術の構築より意味のあることを話していたのだ」
 知らんがな。
83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:04:12.50 ID:MVfd8QFcP
「一緒に学校に通いながらも『確かに同級生ですけれど、わたしはメイドですから♪』とオレから一歩下がってひかえる姿! セーラー服なのにメイド! 同級生なのにメイド!
『これもお仕事です! さ、おとなしくお口を開けてくださいな。はい、あ〜ん♪』と恥ずかしがるオレに教室でお手製弁当をあ〜んしてくれる! さらには、プールの授業後――」
 僕は鼎と友人であっていいのかどうか、そろそろ真剣に悩んでいいと思う。
 暑い。
 見上げれば空は青く、雲ひとつない晴天。わずかに木々もそよいでいた。
 これで湿度と気温が高くさえなければ花丸を差し上げるところなのだが、いかんせん暦は日本の四季から個人的に取り除いてほしいランキング一位の、夏だ。
84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:05:23.15 ID:MVfd8QFcP
「――というわけで、世界的な見地からしてもメイドさんは偉大なんだが……アサよ、聞いているかね?」
「聞いてないよ」
 懇切丁寧かつ簡潔無比な返答をしてあげた。
「はぁ……まったく、アサは才能があるというのにそんなことでどうするというのだね?」
 何の才能だか。
「まあ、オレたちにはまだ時間がある。ひとまずはオレの話を聞き流しているだけでいい。それは絶対アサの力になるだろう」
 ならんならん。
「こらこら、勝手にたそがれるな。しかたないな……アサよ、ひとつおいしい話をしてやろうではないか」
「おいしい話?」
「そのとおり。これを見よ!」
 部活動許可申請書……?
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:06:40.24 ID:MVfd8QFcP
「二学期までもつれ込んでしまうが、ようやく認可が下りたのだ」
「……それが、どうしておいしい話と関係あるの?」
「これが予算。この項目が活動内容だ」
 ばさり、と数枚の紙が机の上に置かれた。
 えーと、何々――
「鼎」
「何かね、朝霧瑞希君?」
 ふんぞり返るな。
「ずいぶんと予算が多いね」
「生徒会に根回しをしたからな」
「それと、活動内容にある『現地での部員レクリエーション』って項目が気になるね」
「一部教職員にも根回ししたからな」
 要するに、
「これって、部活動費で買い食いする部活ってことだよね?」
「そういう側面もあるかもしれんな」
 灰色な答え、ありがとう。
86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:07:21.23 ID:G01nuxgt0
つC
87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:07:22.31 ID:G01nuxgt0
つC
88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:07:23.30 ID:G01nuxgt0
つC
89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:07:24.24 ID:G01nuxgt0
つC
90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:07:25.13 ID:G01nuxgt0
つC
91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:07:26.13 ID:G01nuxgt0
つC
92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:07:27.32 ID:G01nuxgt0
つC
93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:07:28.44 ID:G01nuxgt0
つC
94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:07:29.40 ID:G01nuxgt0
つC
95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:07:30.45 ID:G01nuxgt0
つC
96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:07:53.02 ID:MVfd8QFcP
「部員が少々必要でな、今探しているところだ。もし、名義を入れたいという友人がいれば――たまにいい目が見れる可能性もあろう」
「わかった、これからよろしく」
 入部届けください、と出した手を避けられた。
「その前に、メイド談義の続きに花を咲かせるとしようではないか、アサよ」
「……初回はチョコ系で頼むよ?」
「了解だ、親友よ」
 よしよし、じゃあさっさと書いてしまうか。
 さらさらさらっと。
「はい」
「うむ、ご苦労。朝霧部員よ」
「ありがとうございます、斉藤部長」
 ……あの、なんでこのタイミングでニヤリと笑いますか?

「これで、君も栄えある『正義部員』だ」

 2.九月二十四日木曜日、平日

 ――と、そのような絶望的な過去の夢を見た。
97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:09:11.07 ID:MVfd8QFcP
「なんで正義部だ!?」
 いまさらで、相手も目の前にいないがツッコまざるを得ない。
 メイド部というのならまだわかりやす……いや、それはさすがに張り倒してでも入部届けを奪いとらねばならないが。
「……ふぁあ」
 時計を確認すると午前六時。デジタルなそれは今日が木曜であることまで克明に知らせてくれる。余計な真似をしおってからに。
「んー……寝足りない」
 昨日も動き回ったせいだろう、連休明けだというのに回復した気がしない。
「しかして、それでも平日はやってくる……ってか」
 どことなく体が痛い。
「……やっぱり敷布団くらいはほしいかなぁ?」
 タオルケットを敷いても、床はやっぱり硬い。
 今後を考えると買っておく必要があるだろう。
98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:10:32.10 ID:MVfd8QFcP
「瑞希、おはよう。朝からすっとんきょうな声を上げて、どうかしたの?」
「エプロン」
 もとい、エプロン姿のリノだ。制服エプロンとはこしゃくな。
「うん? あ、朝ごはんはもうちょっと待ってね。もう少しでできあがるから座って待っていてよ」
 おおぉ……なんと手際のよい。
「うん、わかった。ありがとう」
「ふふん、この魔王リノ様にたくさん感謝するがいいのだー♪」
「エプロン姿で家事をこなす『魔王様』に感謝です」
 あ、苦い顔になった。
「――リノ、朝は笑顔で行こうよ」
 かちり
「はいっ、ご主人様♪ リノ笑顔でがんばりまぁすっ――ってさせるなぁあああ!」
 はっはっは。
「まったくもう……瑞希がこんなに意地悪だとは思わなかったよ……」
「んー、でも、寝起きは機嫌のいい顔が見たいよね?」
「むぅ……なら――って、私は確か機嫌よく瑞希に挨拶したよっ! どういうこと!っ?」
 バレた。
「おはようリノ、今日もいい朝だね♪」
「ごまかすなー!」
 はっはっは。
99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:11:53.69 ID:MVfd8QFcP
「ごちそうさまでした」
「うん、おそまつさまでした」
 いうだけのことはあり、リノは本当に料理上手のようだった。
「どう? おいしかったかな?」
 と、訊く声も答えを確信し切った自信ありげなものだし。
「そうだね、うまかったよ」
「そうでしょうそうでしょう♪」
「今まで目玉焼きは、こげているか炭になっているか白身が透明なままのものしか食べたことなかったから、画期的だった」
「……瑞希、今までどういう食生活してたの?」
「しょくせいかつ」
 と申されましても。
 戸棚を開け、箱に詰めた様々なパックをテーブルに並べた。
「インスタント文明は素敵なのですよ」
「なるほど……食費がかかるわけね」
 はあ、とため息をつかれた。
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:13:06.59 ID:MVfd8QFcP
「料理のひとつくらい覚えればよかったのに」
 軽々しく言うんじゃありません。
「リノは、爆発する鍋とか爆発するフライパンとか爆発する冷蔵庫を見てもそれを言い続けられるのか?」
「お鍋やフライパンはなんとなくわかるけど……冷蔵庫って爆発するものだった?」
 するんです。したんです。
「ところで瑞希、疑問なんだけど」
「ん? 何?」
「昨日、お昼から夜までいったいどこに出かけてたの?」
 ……。
「『出かける』の書き置きひとつだけだと不安になるよ」
「あー、バイトみたいなものだよ」
「バイト?」
「不定期だから突然いなくなるけれど、気にしないでね」
「変わったバイトをしてるね……どういうお仕事なの?」
「ノーコメントでお願いします」
「わかった」
 物分りいいなぁ。
101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:13:25.52 ID:G01nuxgt0
(´д`)
102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:14:20.16 ID:MVfd8QFcP
「あと、もうひとつ訊きたいんだけど、瑞希はどこに通っているの?」
「僕? リノと同じ白鳳で、一年二組だよ」
 正しくは、リノの着ている制服と同じで、だけど。
「へぇ、この制服って白鳳って学校のものなんだ……」
 ……すみません、そこからですか。
「学校、楽しい?」
「えーあー……うーん……チットモサッパリ、タノシクナイ、デスヨ?」
 おもしろいことなんてなにもありませんよ、はい。
「そうなの?」
「ええそうですとも学校なんて勉強を詰め込むための機関に過ぎませんそもそも教師だって社会人としての経験なく教師としていきなり大量の部下たる生徒を
任される立場にあるわけですから命令する立場としての経験や人格形成においてそれが十分になされているとは限らないわけであるからしてですね」
103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:15:38.90 ID:MVfd8QFcP
「ふぅん」
 よし、興味がそれた!
「おおっと、じかんがきてしまった。やあ、そろそろぼくはがっこうにいそがないと、ちこくしちゃう。わあ、たいへん」
「あれ? 木曜日は早いの?」
 大まかな生活パターンは昨日のうちに教えてある。
「きっとそういうことです!」
「じゃあ、後片付けは私がしておくから、瑞希は行きなよ」
 うぐっ! な、なんか罪悪感が……。
「はい、お弁当。早めに帰ってきてよね?」
「承知した」
「荷物持ちがいると買い物が楽だし……フフフフフ」
「はめられたっ!?」
>>>
104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:17:01.83 ID:MVfd8QFcP
「またか、こんちくしょー!」
 叫び、男はどかん、と机をたたいた。
 こんもりと山を作っていた灰皿が一瞬浮き、がしゃんと耳障りな音を立てた。
「そうはいってもですね、あたしがこれ以上何かできたと思います?」
 電話の向こうで可愛らしい声が、とげのある言葉を放っている。
 煙草の煙が充満した部屋の中、男はそれでもメモ帳とペンを引き寄せ訊ねる。
「ああ無理だな、当たって悪かった。で、今回の事件のあらましを教えてくれ。なるべく、詳しくな」
 はあ、と大きなため息があった。
 男に聞こえるよう、わざと大きくしたのだろう。
「本日九月二十四日の午前八時三十分ごろ、白鳳高校のそばの路地で金切り声。急いで向かった先には彼女と被害者女性、あと犯人らしき人物。
で、あたしが着いたときにはすでにソイツは転がっていて、彼女は去る直前。あわてて声をかけたけれども聞こえていたかどうかも怪しいわね、あれじゃ」
 嫌がらせのように速い報告を、自己流の速記で男は書き留めた。
105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:17:46.68 ID:G01nuxgt0
C
106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:18:06.62 ID:7Tq0EESWO
シェーン
107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:18:20.83 ID:MVfd8QFcP
「事件の中身は?」
「知らない。状況から見て強盗か強姦でしょ。でも、それを調べるのはあたしの仕事じゃない」
 だから聞くな、と言外にいった。
 しかし、少女のいいたいことをわかって、その上で男は笑う。
「おーう、ご苦労さん。んじゃ、勉学いそしんでくれ」
「保坂編集長……そう思うなら、あたしを頼らないでいただけませんか?」
 明らかに怒気を孕んだ声を柳と流し、
「ま、そう膨れるな。これで八度目の遭遇だ、社長賞もくれてやるよおめでとさん」
「まったく……連休明けくらい、彼女も休んでくれればいいのに」
「そりゃ、佐奈よぉ。相手のが若いってことだ」
 けけけ、と意地悪く保坂は笑った。
 電話はものすごい音を響かせて、ぶっちりと切れた。
> >
108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:19:29.88 ID:MVfd8QFcP
「そりゃあ、彼女の正体は気になるわよ……。だけど、あたしに調べさせるというのはどういうことだ!」
 佐奈は叫んだ。
 購買の脇に設置された公衆電話は、不満げに、がこんと鳴いた。
 昼食を買いそびれた何人かの生徒が何事かと振り返ったが、佐奈は気にしなかった。
 いい加減頭にきているのだ。
 弱小出版の弱小雑誌の弱小編集部、そこの長が佐奈のおじである保坂だった。
 言葉巧みに『マスコミに興味がある』という言葉を引き出させ、それからというもの佐奈は保坂のいい小間使いである。
「第一、『週刊奇跡報道』なんて、紙面の八割がUMA関連のうそつき雑誌じゃないのよ……何が報道よ! 何がマスコミよ!」
 がん、と一発、佐奈は公衆電話を蹴りつけた。
「ひゃっ!?」
 直後、その公衆電話が鳴り出した。
「も、もしもし……?」
 恐る恐る受話器を上げると、
「言い忘れてたんだが、彼女をどうにか見つけてくれ」
 何事もなかったかのように保坂がしゃべり始めた。
「は?」
 佐奈は素でそんな声を漏らした。
109 : ◆FQUCU1Gke. []:2009/04/30(木) 23:21:08.62 ID:6jfYNCpiO
110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:21:35.62 ID:G01nuxgt0
111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:23:50.41 ID:qXbmWseL0
しえん
112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:26:30.16 ID:G01nuxgt0
C
113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:28:03.88 ID:qXbmWseL0
支援
114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:37:00.24 ID:G01nuxgt0
C
115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:40:08.95 ID:7Tq0EESWO
しえんだ!
116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:42:00.90 ID:eZGaPf0r0

117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:47:38.50 ID:eZGaPf0r0
とまった?
118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:49:02.61 ID:G01nuxgt0
   _,,....,,_  _人人人人人人人人人人人人人人人人人_
-''":::::::::::::`''>さるってやがる!書き込みしすぎたんだ!!<
ヽ::::::::::::::::::::: ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^YY^Y^Y^Y^ ̄
 |::::::;ノ´ ̄\:::::::::::\_,. -‐ァ
 |::::ノ   ヽ、ヽr-r'"´  (.__
_,.!イ_  _,.ヘーァ'二ハ二ヽ、へ,_7         r' ̄i __   _____   ______
::::::rー''7コ-‐'"´    ;  ', `ヽ/`7    , - 、 ゙‐- ',´ _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、_ イ、
r-'ァ'"´/  /! ハ  ハ  !  iヾ_ノ   {   }   'r ´          ヽ、ン、  r'⌒',
!イ´ ,' | /__,.!/ V 、!__ハ  ,' ,ゝ   `‐-‐'   ,'==─-      -─==', i  !、_丿
`!  !/レi' (ヒ_]     ヒ_ン レ'i ノ    ◯     i イ iゝ、イ人レソ     i |
,'  ノ   !'"    ,___,  "' i .レ'          ,レリイi (ヒ_]     / _ルヽイ、i .|| ○
 (  ,ハ    ヽ _ン   人!           ,,/!Y!"" ,___,  ヒ_ン ) 「 !ノ i  |-‐、,,
,.ヘ,)、  )>,、 _____, ,.イ  ハ    ,,r-─(_)      ヽ _ン   "".ノ !.; ヽ ヽ `,
                    (                        ,r‐″
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119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/04/30(木) 23:51:48.79 ID:eZGaPf0r0
いつもの事だが、ゆっくりやろうよw
120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/04/30(木) 23:59:29.67 ID:G01nuxgt0
( ^ω^)
121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 00:00:25.68 ID:Pnk8qtKPP
 携帯電話の番号を知られないようわざわざ公衆電話を用いているのにどうやって逆探知したのかもわからなかったが、何よりも保坂の言っていることが微塵もわからなかったからだ。
「聞こえなかったか? アレだよ、ホラ、俺らってここまで彼女のかかわる事件を見に行っただけじゃん」
「見に行ったのはあたしだけですが」
「だから後手後手回ってた。ってことは、先手――つまり、彼女の正体を暴いちまえばいくらでも取材し放題ってことだ」
 莫迦?
 と、佐奈は本気で思った。一分の迷いもなかった。
「それにだな」
「何よ?」
「実は、ウェブで発表しちまったんだ。『専属記者が魔法少女の正体をつかみました』って」
 莫迦。
 と、佐奈は本気で思った。脳内カテゴライズも完了していた。
「つーわけで、ボーナスははずむから頼んだ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! あたしひとりで探せるわけないでしょ!?」
「まあ、聞け。俺だって何も考えてないわけじゃあない」
 その一言に佐奈はほっと胸をなでおろした。
「相手が女の子なんだから、お前のとこの学生かもしれないだろ」
 まあ、そうだ。
 それで、どうやって絞り込むのだろうか。
「じゃ、そういうことで、がんばれ」
 電話は切れた。
 佐奈も切れた。
>>>
122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 00:01:37.40 ID:Pnk8qtKPP
 白鳳学院高等学校は偏差値の高い私立校だ。
 有名国公立大学への進学者数も多く、受験倍率もまずまず。経営的にはうまくいっているといえる状態だろう。
 ただ、創立より間もない平成生まれの学校のためか、全国クラスの部活の育成には成功していないのが現状である。
 なお、ほどよく便の悪い立地は、毎日登下校に歩くことで生徒の体力を養うため、らしい。地価のせいではない、らしい。らしい。
 そんな白鳳高校の特徴のひとつが、木曜日の午後の授業時間枠をまるまる部活にあてていることだ。
 表向きには『健全にして強固な人間関係の育成を奨励し、また、勉学のみならずスポーツにも力を注ぐことができるよう配慮したためである』とあるが、生徒はおろか教師のひとりとて信じてはいないだろう。
 要するに、部活で成果がほしいのだ。
 願わくば、一般の生徒まで飛び火しないよう特待生諸君の奮起を期待したい。
「朝霧部員、待ちたまえ」
 そんな木曜日午前中の最後の授業が終了した直後に、呼び止められた。
123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 00:02:49.67 ID:Pnk8qtKPP
「……何かな、鼎?」
「朝霧部員、今は部活の時間だ。オレのことはきちんと斉藤部長と呼びたまえ」
 メイド狂いは堂々と仁王立ちをしていた。僕の席の目の前で。
「正確にはまだ昼休みだよ、鼎。部活の時間は一時から」
「細かいことを気にしてはいかん。そんなことより朝霧部員。それは何なのだね?」
「……弁当だよ?」
 僕の机の上には弁当が広げられていた。
 錦糸卵が乗せられたご飯に、アスパラガスのベーコン巻き、ほうれん草のおひたし、きんぴらごぼう、おまけにプチトマトがちょこんと入っている。
「ずいぶんと手の込んだ豪勢な弁当に見えるのだが、気のせいかね?」
「気のせい気のせい」
 はたはた、と手のひらを振ってやった。
「朝霧部員」
「なんですか、顔が近い斉藤部長」
「オレは朝霧部員の親友として中高を渡り歩いてきたつもりなのだが」
 腐れ縁ともいう。
124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 00:03:03.16 ID:ci58dpHH0
つC
125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 00:04:02.73 ID:Pnk8qtKPP
「その経験知識からいわせてもらうと、朝霧部員の料理の腕は破滅的だ」
「きょうび、ゲームの女性キャラにも用いられそうにない寸評をありがとう」
「そして、朝霧部員はひとり暮らし。では、この弁当の正体は何だね?」
 リノが早起きして作ってくれました。
 晩ごはんの詰めなおしではなく、きちんと全部のおかずを作り直してくれたというので今朝からお弁当の中身が楽しみでした。ハイ。
 え? リノが誰かって?
 魔王陛下様ですよ。『魔界』の王様です。『魔法』も使えるんですよ。
「僕も成長するということさ」
 ――言えません。言いません。
「朝霧部員が成長……するのか?」
「いや、真剣に驚かれても」
「ふむ……まあいい、好意を持たれたのならば大切にしたまえ」
「へーい」
 あー、きんぴらごぼうがおいしい。
「さて、朝霧部員。ここからが本題だ」
「……食事時にメイドさんの話はやめてくれよぉ」
 少量なら健康にもいいのだが、鼎の提供するメイドさんの話題は明らかに過剰だ。おーばーどーずだ。致死量だ。
「いいや、オレはちゃんと『朝霧部員』と呼びかけているだろう。正義部の話だ」
 ぴた、とプチトマトをつかむハシが止まった。
「おおっとぉ! いやぁ、僕、音子姉に呼ばれてたんだ。やあ、ごめんごめん。それじゃあ、斉藤部長。また今度ー」
 食べかけの弁当をしまいこみ、ささっと脱出を試みた。
「では、姉さんに夕飯はいらないと伝えておいてくれたまえ。オレは本日中に片をつけるつもりなのでな」
 何の話やら。
>>
126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 00:05:13.53 ID:ci58dpHH0
つC
127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 00:05:15.67 ID:Pnk8qtKPP
 首尾よく鼎の魔の手から逃れることはできたが、言い訳に使ったおかげで思わぬ用事が増えた。
 このままこそこそとエスケープするつもりだったのだが、いやはや世の中とはなかなかうまく行かないものだ。
「というわけで、音子姉をいぢめに来ました」
「えええええっ!?」
「音子姉さん、声が大きいです。他の先生方に迷惑ですよ」
「えっあっ、ご、ごめんなさいです?」
 職員室の面々はさして気にした様子もなく――むしろ、微笑ましげにこちらを見つめていた。
「鼎から伝言です。夕飯はいらないとのこと」
「あ、はぁい。わかりました。伝言ありがとうございます」
 ぺこ、と音子姉は頭を下げた。
「いい子だ」
 なでやすい位置にあったので、とりあえず頭をなでてみた。
「わーい……って、違いますよぉ! 先生の頭をなでちゃいけませーんっ!」
「まあ、いいじゃないですか。頭のひとつやふたつ」
「人間に頭はひとつしかありませんっ!」
128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 00:06:31.99 ID:Pnk8qtKPP
 この木村の姓を持つ女教師は、何の間違いか鼎の実の姉である。
 音子姉は眉目秀麗ですらりとした長身の持ち主だ。幼少より叩き込まれたという礼儀作法のおかげかその立ち居振る舞いは実に優雅で格好いい。
武芸にも秀で、勉学についても文句の付けようがなかったという。なんというか、女性にモテる女性を絵に描いたような傑物――なのだが、会話をすればこのとおり。実に困ったおひとなのだ。
 そんな人畜無害が羊の皮を被ったような女性は、一応のところ我がクラスの担任教師として君臨している。
「うぅ〜……いくら瑞希君が大人な先生にあこがれているからといっても、この対応はいただけません。減点です! ダメダメです!」
「むちむち頭脳が売りの大人先生ばんざーい」
「えっへん♪ ……頭脳?」
 ワンテンポ遅れて音子姉の頭にクエスチョンマークが生まれた。
「無知無知ですよね?」
「え、ええ、もちろんです! 音子姉さんはお胸の立派なむちむちさんです!」
 そんな無知蒙昧な大平原。
129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 00:06:48.45 ID:ci58dpHH0
つC
130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 00:06:50.19 ID:ci58dpHH0
つC
131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 00:06:51.24 ID:ci58dpHH0
つC
132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 00:06:52.38 ID:ci58dpHH0
つC
133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 00:06:53.39 ID:ci58dpHH0
つC
134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 00:07:41.96 ID:Pnk8qtKPP
「それはそうとして、朝霧君はもっと先生を――」
 がら、と職員室の戸が開けられた。
「失礼します木村先生はいらっしゃいますか?」
 げっ。
「ね、音子姉。急用みたいだし、僕はもう行くよじゃあね!」
「すぐ終わるから気にしないでいいわよ」
 はあ、そうですか。僕はすぐにでも帰りたいなぁと思うのですけれど。
「単刀直入に訊きます。先生、ここしばらくで奇妙な言動をしたことのある、あるいはしている生徒に心当たりはありませんか?」
 茶髪のショート。きらりと光るメガネがひとつ。手帳を片手にペンを持ち。走れば速く持久力もあるすらりとした足を備えて。
 白鳳高校生兼雑誌記者、母里佐奈がそこにいた。
「先生の生徒には、特にそういったひとはいませんでしたよ?」
「そうですか失礼します」
 答えが得られたらもう用はないとばかりに、佐奈さんは職員室の戸に手をかけ――
「先生」
「はい? 他にも何か質問ですか?」
 ええ、と体半分を戸に向けたまま佐奈さんは口を開いた。

「魔法少女と思しき生徒はいませんか?」

 ぴた、と音子姉の動きが止まった。
135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 00:07:53.71 ID:ci58dpHH0
つC
136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 00:07:55.94 ID:ci58dpHH0
つC
137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 00:09:46.89 ID:Pnk8qtKPP
「母里さん」
「なんですか?」
 辺りをうかがい、周辺の席に自分たちしかいないことを確認すると、音子姉はいつになく真面目な顔をして、近くに寄るよう手招きをした。
「母里さん……あなた、ひょっとして――」
 その声に、ごくり、と思わず生唾を飲んでしまう。
 まさか、本当に何か知っているんじゃ――

「――魔法少女大好きなんですかっ!?」

「「……は?」」
 ハモった。
「そうなんですよね! 魔法少女好きだと街でホントに活躍している魔法少女さんがいると探したくなりますよね!
ええ、ええ、わかります。先生も魔法少女さんの正体をつきとめたら、あわよくば魔法少女二号になる資格がもらえるかもしれないと思うといてもたってもいられなく――」
 僕はこそっと職員室から抜け出した。
>>
138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 00:11:32.26 ID:Pnk8qtKPP

といったところで、書き溜めが尽きました。

某くーるさん登場直前ですが、ご容赦を。
139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 00:13:33.41 ID:FWfAM4RC0
乙。

再開予定は?
140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 00:15:32.93 ID:Pnk8qtKPP
>>139
再開予定は……

道理を引っ込ませる勢いなら今日の午前中なんだけど、あまり期待できない。
夜までお待ちくださいませorz
141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 00:20:28.00 ID:nygzOemd0
支援
142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 00:22:21.44 ID:Jqc52673P
よっしゃああああああああああああ
いよいよ全員集合くるうううう
143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 00:24:04.87 ID:Jqc52673P
ここまで読んでの文句や感想、指摘などございましたらお教えください。

よろしくお願いいたします



という作者さんの声が聞こえた気がした・・・
144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 00:30:28.76 ID:Jqc52673P
音子姉は眉目秀麗ですらりとした長身の持ち主だ。幼少より叩き込まれたという礼儀作法のおかげかその立ち居振る舞いは実に優雅で格好いい
音子姉は眉目秀麗ですらりとした長身の持ち主だ。幼少より叩き込まれたという礼儀作法のおかげかその立ち居振る舞いは実に優雅で格好いい
音子姉は眉目秀麗ですらりとした長身の持ち主だ。幼少より叩き込まれたという礼儀作法のおかげかその立ち居振る舞いは実に優雅で格好いい


・・・どこが?
145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 00:31:01.84 ID:ci58dpHH0
つぬるぽ
146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 00:49:10.83 ID:ci58dpHH0
( ^ω^)
147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 00:52:34.25 ID:jZWjmYHNO
ぬるぽするなら下げちゃダメ!
148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 00:52:59.34 ID:ci58dpHH0
 〇∧〃 でも、そんなの関係ねぇ!
 / >      そんなの関係ねぇ!
 < \     そんなの関係ねぇ!
149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 01:00:11.55 ID:jZWjmYHNO
さげぬるは放置される宿命!

こないだパンを買いにパン屋に行きました。
フランクフルトを見つけてハルちゃん男の子なんだと知り僕の恋は終わってしまった。
ハルちゃん・・・
150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 01:01:33.93 ID:ci58dpHH0
はい!
オッパッピー!!

  ○/
 /|
  />
151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 01:10:30.03 ID:ci58dpHH0
>>149
(´-`).。oO(???)
152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 01:21:17.12 ID:ci58dpHH0
(´д`)
153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 01:49:12.56 ID:Pnk8qtKPP
さるさん復帰

でも寝る
154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 01:52:39.60 ID:Jqc52673P
スーパー保守タイム!
155 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 01:55:09.40 ID:Pnk8qtKPP
なお、

せんせーの立ち居振る舞いがきれいなのは、誰ともかかわってないとき限定です。

基本的にダメな人ーw
156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 02:13:31.86 ID:2DWkK+uv0
http://up2.viploader.net/upphp/src/vlphp248605.jpg
157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 02:37:03.10 ID:ci58dpHH0
【審議中】   /\/\/\/\/\/\
       ./  ./| /| /| ./| ./| ./|
      ∴\/./ . /  /  / /  /
      ゚∵ |/∵|/; :|/:;;;|/.;. |/ ;.;|/
     _, ,_  _, ,_  _, ,_  _, ,_  _, ,_  _, ,_
   (ノ゚Д゚) ノ゚Д゚) ノ゚Д゚) ノ゚Д゚) ノ゚Д゚) ノ゚Д゚)ノ    
  /  / /  //  //  //  //  /
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
158 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 02:49:56.10 ID:Jqc52673P
あわよくば魔法少女二号になる資格がもらえるかもしれないと

先生・・・あなたはもう・・・
159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 03:42:18.76 ID:nygzOemd0
保守?
160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 04:30:30.06 ID:nygzOemd0
流石にだれもいなのかな
161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 04:39:21.29 ID:nygzOemd0
眠気がすごいのであとは誰かに頼みました・・・
申し訳ない
162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 06:01:21.80 ID:p7nX+bexO
さくらさくらさくらとメカさくら
163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 06:40:03.70 ID:bBe7zZEr0
おはよ保守
164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2009/05/01(金) 06:41:16.07 ID:q9PytcfB0
^^
165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 07:11:35.42 ID:oz65ENQrO
保守
166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 07:57:04.91 ID:oz65ENQrO
誰もいないのか
保守
167 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 08:18:32.74 ID:CDreg6WxQ
おは保守
168 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 08:57:50.32 ID:6kFPOUy+0
ho
169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 09:32:07.97 ID:oz65ENQrO
170 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 09:51:40.05 ID:6kFPOUy+0
ho
171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 10:26:27.09 ID:Pnk8qtKPP
おはようございま
172 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 10:52:24.29 ID:ycwZK427O
今日は早いな
173 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 10:57:28.97 ID:Pnk8qtKPP
おかげさまで、早めに寝れましたからー
174 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 11:06:17.42 ID:oz65ENQrO
>>171
おはよ
175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 11:07:45.50 ID:Pnk8qtKPP
おはよー


昨晩無理に更新しないでよかったぁあああ
危うく南熊さんが瑞希の家の玄関で待機してる文章貼り付けるところだったwww
176 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 11:26:12.08 ID:GzWCXwj/0
保守すると規制されるって本当?
177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 11:27:01.79 ID:vrZAzmod0
【審議中】   /\/\/\/\/\/\
       ./  ./| /| /| ./| ./| ./|
      ∴\/./ . /  /  / /  /
      ゚∵ |/∵|/; :|/:;;;|/.;. |/ ;.;|/
     _, ,_  _, ,_  _, ,_  _, ,_  _, ,_  _, ,_
   (ノ゚Д゚) ノ゚Д゚) ノ゚Д゚) ノ゚Д゚) ノ゚Д゚) ノ゚Д゚)ノ    
  /  / /  //  //  //  //  /
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 11:31:27.56 ID:Pnk8qtKPP
>>176
それは初耳
179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 11:44:57.22 ID:vrZAzmod0
      | ホス|
       | ̄ ̄ ̄
     /⌒ヽ
    (^ω^ )   
    _( ⊂ i
.   └ ー-J テクテク
180 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 11:58:06.22 ID:vrZAzmod0
ho
181 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 12:34:38.44 ID:p7nX+bexO
たまにまんじゅうが食いたくなる
182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2009/05/01(金) 12:56:23.99 ID:vrZAzmod0
(´-`).。oO(なんでだろ?)
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